社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
「揉めてお前とこれきりになりたいわけじゃない。
 思い出してみろ。

 今までの楽しかった日々を。

 可愛い猫。

 快適なタクシー通勤。

 気のいいドライバーさんと会社に着くまで過ごす、ほっと一息な時間と空間。

 懐かしい喫茶店。

 美味しい定食。

 可愛い猫。

 美味しい寿司。

 気のいい大将。

 可愛い猫。

 益岡さんの淹れてくれた紅茶。

 おじさんの謎で幻なチーズケーキ。

 俺と離れたらすべて失うんだぞ」

 うう……。

 痛いところを突いてくるな、と千景は思った。

 だが、たくさんあるように聞こえて。
 よく聞いたら、可愛い猫が何度も繰り返されているし。

 そもそも、どれも別に将臣がいなくても楽しめるもののような気もするのだが――。

 でも、そこに社長がいないと、まったく違う風景になる気がするのも確かだな。

 そう千景が思ったとき、将臣が言った。
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