社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
 俺は……

 なんてちっぽけな存在だったんだ……。

 将臣は今、宇宙と対峙していた。

 幼き頃から常に人に注目され、トップを走ってきたおのれの人生を回顧し、反省する。

 その駆け抜ける回想の中に、学生時代の痩せた武者小路も現れた。

 いや、新幹線が通過する駅のホームに、実は武者小路が立っていた……くらいの一瞬の出現ではあったのだが。

 蝋燭の灯りに照らし出された千景の顔は真剣で、相変わらず、こちらを見もしない。

 ここでは俺は空気のようだ。

 なんで小さい存在なんだ。

 この世界を占めているのは、千景と千景が写している仏と、宇宙……

 まで行ったとき、描き終えた千景が、ふう、と笑顔で筆ペンを置いた。
< 402 / 477 >

この作品をシェア

pagetop