社長っ、このタクシーは譲れませんっ!



 廊下の途中にある小さな倉庫に物を取りに行った八十島は、奥の方でゴソゴソしている人影があるのに気がついた。

 そっと覗いてみると、千景がスチール棚にずらりとあるダンボールを開けてはなにかを探している。

 狭い倉庫の中には、他に人影もない。

 ふと、薄暗い密室に二人きりでいても、なにも起こらなかった将臣と千景の話を思い出していた。

 今、ここも似た状況かもしれない、と八十島は気づく。

 密室に二人きり。

 薄暗……

 くはないが。

 倉庫なので、小洒落れたダウンライトとかではなく。

 極普通の蛍光灯がついていて。

 しかも、狭いので、何処よりも煌々(こうこう)と明るく、隅々まで照らし出されている。

 ……だが、まあ、二人きりなことには違いない。
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