社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
 千景は熱心になにかを探していて、自分が入ってきたことにも気づいていない。

 俺の探しているものは確実にあの棚にはないが。

 あそこを探すフリをして近づくか。

 いやいや、なんでこの俺が嵐山なんぞのために、そんな小芝居を、と思ったとき、千景が、こちらを振り向いた。

「あ、八十島さん。
 お疲れ様です」

 今、振り向くと思っていなかったので、ビクリとしてしまう。

「お、お疲れ……。
 なに探してるんだ?」
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