社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
「いや~、それが昔、営業部が作ってた冊子が役に立つんじゃないかって、仙人(せんと)さんがおっしゃるので。

 営業部に訊きに行ったら、もう当時の人、営業部に残ってなくて。

 人事に行って、その年代に営業にいた人の捜索をして。

 でも、その方もよく覚えてなくて。

 この間定年退職なさった営業の先輩という方に電話して、なんとかここにたどり着いたんですけど。

 なんと、私、こっちの棚、よく違う資料の捜索に来てたんですよね」
と千景は今探している棚の右隣の棚を指差す。

「幸福の青い鳥はすぐ側にいたって話ですね。
 でもなんか、お宝探してるみたいで、楽しかったです」
と千景は笑っていた。

「……お前はいつも楽しそうだな」

 うっ、しまったっ。
 『いつも楽しそうだな』は、いい意味で言ったつもりだったんだが。

 いつもと同じ感じに、嫌味っぽく言ってしまったっ。

 八十島はそう焦ったが。

 そもそも、千景はなんにも気にしていなかった。
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