社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
 


 その日、将臣は駄菓子となかなか手に入らないスイーツを用意した。

 必ず千景が釣れるようにだ。

 なかなか手に入らないスイーツの方は、坂巻に頼んで、武者小路が手に入れてくれていた。

 八十島が言う。

「今日は早く帰れるよう、調整しておきました。
 また、嵐山の方も残業にならないよう、前倉さんに頼んでおきました」

 そこで、八十島は渋い顔をする。

「……でもこれで上手くいってしまったら、私は嵐山を嵐山様と呼ばねばならないのでしょうか」

 社長夫人になるわけですからね、と言う八十島に、

 いや、それを言うなら、千景様だろうよ。
 なんで俺と結婚しても、旧姓の名字で呼んでいる、と思った。

 入社したばかりの千景には、旧姓のままいたいほどの仕事のキャリアはまだないだろうし。

 いやまあ、どっちでもいいんだが。
< 436 / 477 >

この作品をシェア

pagetop