社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
 

 将臣は千景と会社の前庭で待ち合わせしていた。

 最近、与太郎に似たメスの三毛猫が出没し、千景たち猫好きをメロメロにしていたからだ。

 千景は猫と楽しく遊んでリラックスしていることだろう。

 そこへ菓子を手に、さりげなく現れる計画だった。

 ともかく、普段通りに振る舞わなければ、と将臣は思っていた。

 プロポーズの匂いがすると、千景が逃げてしまうかもしれないからだ。

 駄菓子とスイーツを手に、緊張しながら、将臣はエレベーターに乗る。

 ロビーに降りると、八十島と律子が打ち合わせのフリをしてガラス窓付近に立っていた。

 目線で、千景の位置を教えてくる。

 千景は前庭の植え込みの陰で猫と遊んでいるようだった。

 二人に頷いた将臣は外に出た。

 ジョギングのわりには会社の前を行ったり来たりしている武者小路と坂巻が見える。

 よし、さりげなく。
 警戒されないように、と将臣は千景にそっと近づいていった。
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