社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
 千景はしゃがんで猫にお手を教えていた。
 暖かい夕暮れの光が千景の背を照らしている。

 平和な光景だ。

「千景」
と呼びかけると、千景が振り向いた。

「あ、社長」
と微笑む。

 この光景。
 なにかに似ている――。

 ああ、そうだ。
 俺が思い描いていた世界一愛あふれる未来の光景だ。

 そう思った瞬間、将臣の口から勝手に言葉が飛び出していた。

「千景、俺と結婚してくれ」

 いや、段取り台無(だいな)しっ!
という顔で全員がこちらを見ていたが、止まらなかった。



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