社長っ、このタクシーは譲れませんっ!



 ……この人、急になに言い出したんだろうな、と思いながら、千景は三毛猫を抱いて立ち上がる。

「どうしたんですか、社長。
 また早百合さんに急かされたんですか?」

 だが、何故か顔面蒼白な将臣は、
「いや、そうじゃない」
と言う。

「そうですよね。
 早百合さんは真実さんとあなたの結婚に反対して、私との話を進めていただけですもんね。

 真実さんが八十島さんを好きになった今、そんなに焦って結婚させる必要ないですし」

 そこで千景は気がついた。

「……あれ?
 じゃあ、私、別に社長と結婚しなくてよくないですか?」

 結婚しなくていいと言われてしまうと、ちょっと寂しくなるな、と千景は思っていた。
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