社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
「いや、二人の思い出のタクシーでさりげなく出かけたいと思ったんだが。
 八十島案に、ロールスロイスで夜景の見えるレストランに、というのがあったので、どっちか迷って。

 うちのロールスロイスを塗って、タクシーっぽくしてみた」

 ……なにもさりげなくない、と思って、笑ってしまう。

 みんなに見送られ、千景はタクシー(?)に乗りこもうとした。

 そういえば、抱いたままだった三毛猫が腕の中から飛び降りる。

「あっ、与太子(よたこ)っ」

「……いや、与太子はやめてやれ」

 猫屋敷にあるソファのような、広い後部座席に千景は菓子を抱えて乗っていた。

 座席が広いので、いつもよりもっと離れて座ってしまう。

 なんか……緊張するな。

 将臣も緊張しているのか、窓際に寄って、黙って外を見ている。
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