社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
 沈黙に耐えられない千景が先に口を開いた

「お、お菓子食べますか?
 ……今、いただいたものですが」

 いや、いい、と将臣は、ようやくこちらを振り向いて言った。

「お前も食べるな。
 バチバチ言い出したら、なんかいい雰囲気が台無しだから」

 いや、買ってきたのですか、バチバチ言う飴、と千景が駄菓子を見下ろしたとき、運転手さんが前を見たまま言ってきた。

「あ、そうそう。
 この車、いい装備があるんですね~」

 ずっと二人を見守ってきた運転手さんは嬉しそうに笑い、なにかを操作していた。

 すると、運転席と後部座席の間の間仕切りが透明から白に変わる。

 ニセタクシーの中は二人だけの空間になった。

 ちょっと咳払いしたあとで、将臣が迷いながらも、手を握ってくる。

 その指先がちょっと震えているように見えて。

 最初に一緒にタクシーに乗ったとき、有無を言わさず、お姫様抱っこでタクシーに放り込んできたのにな、と思い出し、笑ってしまう。
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