社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
「なにがおかしい」
と睨まれた。

 ようやくいつもの調子を取り戻した将臣に、ホッとしたように千景は笑った。

 その顔を見ていた将臣が、
「……何処からも見えてなくてよかった」
と言ってくる。

 千景に近づき、その腕をつかんできた。

 いやいや、あのっ。
 運転手さんから見えてないだけで、外からは見えてますよっ、と思ったが、将臣はそのまま、そっと口づけてくる。

 唇を離した将臣が囁くように言ってきた。

「やっと今日はお前に見せられるかな?」
「え?」

 俺のマンション――。

 そう言いながら、将臣は、もう一度キスしてきた。




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