社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
 タクシー色のロールスロイスの前で待っていた運転手さんが、
「おはようございます」
と笑顔でドアを開けてくれた。

 乗り込むと、将臣が運転手さんを見る。

 運転手さんはちょっと笑って、仕切り板の色を変えた。

「いいな、タクシーって」

 いや、これをタクシーと呼んでいいのかわかりませんが……と苦笑いする千景を見て将臣は言う。

「何処まで行っても、お前と二人きりの密室だ」

 千景を見つめた将臣がちょっと笑い、キスしてくる。

 いやいや、ここ、全然、密室ではないですよっ。
 外から見えてますよっ。

 お待ちください。
 ストップですっ、と窓の外を気にして千景は手を突き出したが、むなしく、はたき落とされる。

 諦めて下におろした千景のその手には、花嫁の(あかし)であるアレキサンドライトキャッツアイが朝の光に輝いていた――。


                    完


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