社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
「いやあの、駄菓子のクジじゃないんで。
 見て選んでくださって結構ですよ」
と言ったが、

「おのれの運気をこれで測ってるのよっ。
 いい男、来いっ」
と律子が引っ張り出したのは、きなこ棒だった。

 沈黙してそれを見つめる律子に、千景が訊く。

「それは律子さん的に当たりですか?」

「うーん。
 微妙~」
と律子が言ったとき、少し離れた場所で、誰かが、はは……と笑った。

 事業部の長身イケメンの男性社員だった。

「真柳さん、これ」
と伝票を渡された律子は、は、はい……と押し上げた笑顔で受け取りながら小声で呟いていた。

「アタリでハズレだったわ。
 せっかく滅多に総務に来ないイケメンに会えたのに。
 いい男来いっ、を聞かれてしまったああああっ」

「いやー、でも、そんな律子さん。
 可愛いと思いますけどね~」

 心の底からそう思って言ったのに。

「なにそれ、既婚者の余裕っ?」
と耳を引っ張られる。
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