社長っ、このタクシーは譲れませんっ!

100周年記念イベントです



「いよいよ、明日ですね」

 眠りにつく前、ベッドの中で千景は言った。

 創業100周年のイベントは明日を皮切りに、何度かに分けて行われるのだが。

 社史の発表、配布も明日だった。

「そうだな。
 長かったな。

 って、俺とお前は関わったの、短かったんだが。

 でも、なんだか濃い時間だったな。

 ……いや、お前に出会ったり、タクシーを争ったり、結婚したりもあったから、そう感じるのかもしれないが」
と将臣は言う。

 いやそこ、タクシー争ったりもいりますかね……?

 あのタクシーの運転手さんは、今は会社の車両部にいる。

 相変わらず、親切丁寧な運転で。
 結婚式にも出席してくれた。

 千景たちの縁結びの神様だ。

「それにしても、100年会社が持つってすごいことだよな」

 天井を見ながら将臣は言う。

「100年か……。
 
 今は人生も100年時代。
 俺はここまでの人生、お前なしで生きてきてしまったが。

 残りの人生には、きっとずっとお前がいるな」

 なんだか不思議な感じだ、と天井を見たまま、将臣は言う。
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