たとえ、この恋が罪だとしても
「あら、うれしい。一度あなたとゆっくりお話ししたいと思っていたの」

 待子さんは満面の笑みを浮かべてそう言った。

「今日のお稽古、上の空だったんじゃないかしら? そんなこと今まで一度もなかったのに」

 自動販売機で買ったカップのお茶を飲みながら待子さんにそう言われた。

「そんな風に見えましたか?」

「ええ、悩みごとがあるって顔にはっきり書いてありますよ。こんなおばあちゃん相手でよければ、聞かせてちょうだい。ひとりで抱え込むより人に話したほうがいいときもあるわよ」

 待子さんは包み込むような眼差しでわたしが口を開くのをじっと待っていてくれる。
 いつもと様子が違うのを感じて、声をかけてくれたのだ。

 車が故障したと言うのも口実なのだろう。
 ありがたかった。
 たしかにこの気持ちを吐きだしたかった。

 でも話す相手がいなかった。家族はもちろん、会社の同僚にも話せない。

 わたしは待子さんのご好意に甘えることにした。
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