たとえ、この恋が罪だとしても
「もちろん、すべてあなたの胸に秘めたまま、周囲の事情を優先して波風を立てずに結婚することもできるでしょうね。でも……」

 待子さんはわたしの手を優しくさすった。

「心をごまかし続けていくうちに、綻びが出てしまうんじゃないかしら。そうしたら、あなただけでなく、旦那さんもその周りの人たちも不幸になってしまうわ。こういうときは、自分が楽になろうとしたらだめ。お相手にとってどうすれば一番いいのか考えないといけないわ。ふたりともよ。その婚約者の彼も、あのカメラマンさんのことも」

 自分のことでなく相手のことを一番に……。

 待子さんの言葉がわたしの心にじわじわと浸みこんでいった。

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