たとえ、この恋が罪だとしても
 酒井さんは無視して、安西さんはわたしに言った。

「打ち合わせたいことがあるから、控室に来てくれる?」

「はい」
 ほっとして、安西さんの後に続いた。

「あいつに変なこと言われなかった? アート・ディレクターとしては超一流なんだけど人間的には下衆だから。おれはあんまり一緒に仕事したくないんだけど、紗加が気に入っているんだ。あいつの仕事」

 やっぱりわたしが困っていたから、あの場から連れだしてくれたんだ。

 今日、ここに来てからずっと感じていた。
 撮影の準備で忙しいはずなのに、どこにいてもわたしのことを気遣ってくれる安西さんの視線を。

 こういう現場に慣れていないわたしには、それがどれだけ心強いことだったか。

「そんなことより、だいぶ緊張してるだろ。顔に出てるよ」
< 112 / 182 >

この作品をシェア

pagetop