たとえ、この恋が罪だとしても
「はい。スタッフの方がこんなに大勢いるとも思ってなかったですし……やっぱり怖くなってきてしまって……ごめんなさい」

「よし」と安西さんは急に大きな声を出した。 

「ほら、立って。深呼吸してごらん。おれも一緒にするから。思いっきり吸ってぇ……はいてぇ」
 真剣な表情で深呼吸する彼がほほえましくて……あまりに愛おしくて、わたしは笑顔になった。

「うん。その顔。それでいい」

「はい。わたしもやってみます」
 思いっきり深く息をはいたら、肩の力が抜けて、気持ちがすとんと落ち着いた。

「外野のことは気にしないで、文乃ちゃんはおれだけを見て、おれだけを頼りにしてくれればいいんだよ」

 彼の、いつもの軽薄さはすっかり影をひそめていた。

 普段とは違う、仕事モードの安西さんは、どうしようもなく魅力的で、わたしはどぎまぎしながら「はい」と答えた。
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