たとえ、この恋が罪だとしても
 でも、紗加さんは……と言おうとして、気づいた。
 わたしにだって俊一さんがいる。
 同じことだ。
 
「それでも、おれはどうしても文乃と一緒にいたい。信じてもらえないかもしれないけど、こんなに人を好きになったのは、生まれてはじめてなんだ……」

 彼もわたしのことを想ってくれているの?
 それもこんなにも熱く。

 けっして報われることのない望みだと思っていたのに。でも……


 手を振り切らなきゃ!

 頭のなかでもうひとりのわたしがヒステリックに声を張りあげた。

 あなたの気持ちに応えられないって、そう言わないと!

 それが真っ当な答えであることはよく分かっていた。

 たしかに、これまでだって、俊一さんを心のなかでいやというほど裏切っていた。

 でも、実際に行動に移すことは、まるで次元の違う話だ。
 たとえ心でどう思っていようとも、わたしに婚約者がいる事実は変わらない。
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