たとえ、この恋が罪だとしても
 そうか。
 わたしは崖っぷちを歩いていたわけじゃない。

 安西さんとはじめて会った日。

 この瞳に心を奪われたあの時。

 とっくに深い谷底まで転がり堕ちていたんだ。
 戻ることなんて、はじめから不可能だったんだ。

 その後は言葉にならなかった。

 彼の唇がわたしの唇に重なった。

 噛みつくように激しいキス。
 心のたががはずれ、想いが溢れだした。

「お願い、わたしを攫(さら)ってください……」

 息が苦しくなるほどの狂おしい口づけに翻弄されながら、うわ言のように彼の耳元でそうささやいていた。

 
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