たとえ、この恋が罪だとしても
「その、安西とかいうやつにたぶらかされたんだろう? ぼくが……許すって言ったら、やり直せる? 気持ちの整理がつくまで結婚を延期したっていい」
 
 怒りを抑えた静かな口調でそんなことまで言ってくれる。

 どうしてそんなに優しくしてくれるのだろう。

 でも、わたしは首を横に振りつづけた。 
 頑なな態度を取るわたしを見て、俊一さんの声のトーンが一段高くなる。

「……だって、おかしいじゃないか! ついこの間までふたりで結婚の準備をしてたっていうのに……どうやったらそんな話、受け入れられるんだよ!」

 そう言うと、息が詰まるほどきつく抱きしめられた。

「ぼくは……嫌だ! 文乃と別れるなんて考えられないよ!」 

 ほんのひと月ほど前まで、わたしはなんの疑問も持たずにこの人と一生を共にしようと考えていた。 
 でも今は違う。俊一さんではどうしてもだめなのだ。
< 136 / 182 >

この作品をシェア

pagetop