たとえ、この恋が罪だとしても
 それほど、彼女は凛として美しかった。

 相変わらず緊張はしていたけれど、もうおどおどしていなかった。
 品格すら漂わせていた。

 そして、メイクをして衣装に着替えた文乃は、間違いなく、思い描いたとおりの女だった。

 完璧だ。おれの仕事はただそれを記録するだけだった。

 撮影の終盤、ライトを浴びた彼女の頬が一瞬きらめいた。

 その頬を伝う涙を、こぼれおちていく瞬間を捉えた。

 この日撮った写真のなかで、最高の一枚になる予感がした。

 ファインダーごしにその涙を見た瞬間、文乃を愛おしむ気持ちが大波のように押し寄せてきた。

 完全に心を持っていかれた。
 おれにこんなことに思わせるのは、後にも先にも彼女ひとりだ。
 
 おれの……文乃……

 
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