たとえ、この恋が罪だとしても
 翌日、翌々日も仕事の合間をぬってアパートを訪れたが、文乃が戻る気配はまったくなかった。

 結局おれは、文乃のことを何も知らなかったんだと気づいて愕然とした。

どこに勤めていたのかとか、実家はどこかとか、何も知らない。

興信所に頼むことさえ考えたが、文乃が家族や会社のひとに不審がられることになると気づいて断念した。

 そのときは、テレビのニュースを見るのが怖かった。

 アナウンサーが事件や事故の被害者として文乃の名を読み上げるのではないかと。
 
 そして4日後、携帯電話のメッセージは〝現在使われておりません〟というものに変わった。

 それでようやく悟った。

 文乃が自分の意志で姿を消したってことを。
 もうおれには会う気がないということを。
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