たとえ、この恋が罪だとしても
 安西さんに会うまえのわたしは、自分で決断を下したことが一度もなかった。

 コーラス部で歌の楽しさを知り、本当は音大で歌の勉強がしたかった。
 でも、反対されると決めつけて、結局、親や先生に勧められるまま偏差値に見合った大学を受験した。

 そして親のこねで就職。

 職場で俊一さんに出会って、彼から告白され、プロポーズされて。自分を選んでくれたひとだからと承諾して……
 人生の節目の大事なときでさえ、主体性がまるでなかった。

 波風を立てずに生きるしか他に道はない、と思い込んでいた。

 そんな自分が『生きている』と、強く実感できたのは、安西さんと出会って恋に落ち、俊一さんに後ろめたさを感じながらもモデルをしたときがはじめてで……
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