たとえ、この恋が罪だとしても
 彼は抱きしめていた腕の力をゆるめて、わたしの目をのぞき込んだ。

「それはこっちのセリフ。突然、目の前から消えちゃうって、いったい何の手品だよ」

 口では文句を言いながら、でも、包み込むような眼差しは限りなく優しくて……

「もし、もう一度文乃に会えたら、ぜったい文句を言ってやるんだって思ってた。黙っていなくなるなんてひどすぎるって」

 そう言って、わたしの額に自分の額を合わせた。
 
「でも、そんなことどうでも良くなったよ。こうやって会えたから」

 まだ夢の中にいるようで、現実感が湧かない。

「冷えきってる」
「安西さん……ねえ、どうして?」

 わたしの問いには答えず、安西さんの唇がわたしの唇に触れそうになった。

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