たとえ、この恋が罪だとしても
 あのときもそうだった。
 待子さんが自責の念に沈んだ心を癒してくれた。

「素敵なひとだな。待子さんって。『この年になって、キューピッド役ができるなんて、おふたりに感謝しなきゃ』って言ってたよ」

 コーヒーカップを置くと、安西さんは話をつづけた。

「正直に言うと、会いにくるのはものすごく勇気がいったよ。もう、文乃には別のひとがいるんじゃないかって。それでも、もし、望まない結果になったとしても、気持ちにけりをつけたかったんだ。そうしないと、一歩も前に進めなかった」

「……安西さん」

 そんなふうに思っていてくれたなんて、思いもよらなかった。

 彼を取り巻く世界はあまりにも華やかで、いつしか別世界の住人と思うようになっていた。

 もうとっくに、わたしのことなんて、忘れているはずだと。
 
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