たとえ、この恋が罪だとしても
「ずっと、ずっと、あなたのことはもう忘れなければいけない、と思ってました。安西さんにとってわたしは、もう遠い過去になっているはずだって。
それに、本当に、わたし、安西さんみたいなひとには、ぜんぜんふさわしくないし……」
 
 言葉が終わらないうちに、安西さんの手がわたしの頬に伸びてきて、軽くつねられた。

 思わず顔を上げると、目が合った。
 慈しみに満ちた表情でわたしを見つめている。

 初めて会ったときから、わたしを惹きつけてやまない瞳。

 その美しい瞳と見つめ、ようやくふたたび安西さんに会えたことの喜びが、わたしの心を満たしはじめた。

「何言ってるんだよ。ふさわしいかどうかなんて、おれが決めることだろう」
 そのまま、わたしの髪を優しく撫でながら、続けた。

「おれが愛する女は、文乃だけだよ」
 そう言ったとたん、安西さんはあわてた顔をして、自分の口を両手で押えた。
 急にどうしたのだろうと思っていると……

「うわ、やば。まじで歯が浮いてきた」と真面目な顔で言う。
 本気であわててる姿が可笑しくて、思わず吹き出してしまった。

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