たとえ、この恋が罪だとしても
 わたしはポケットの中でずしっと存在を主張している時計を取りだしてみた。

「なんなんだろう、いったい! 文乃ちゃん、あんな失礼な奴に間違っても関わったらだめよ。そんな時計、送りつけてやればいいわ。嫌ならわたしがやってあげるわよ」
と美紀さんはまだ興奮が収まらない様子でまくし立てた。

 何事かと遠巻きにしていた合唱団のメンバーも集まってきた。

 その中のひとり、電気屋の跡取り息子の翔太さんが、その時計を目にして驚きの声を上げた。

「そ、それって、ハリー・ウィンストンじゃない。おれなんかじゃとても手が出ないような超高級品だよ」

買えはしないけど、ちょっと時計にはうるさいんだと言いながら、翔太さんは手にしたそれをうれしそうに眺めている。

「うひゃー。三百万は越えるよ、これ、限定モデルだ」
「さ、さんびゃくまん?」美紀さんは驚きの声をあげた。

 
 
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