たとえ、この恋が罪だとしても
〈side Ayano〉

 来てしまった。今、安西さんのスタジオの呼び鈴を押している。

 自分にこんな無謀なことをする度胸があったことに驚いた。
 ほんの5分ほど立ち話しただけの男の人を訪ねるなんて。

 ただ、心の片隅に、結婚したらもうこんな冒険はできなくなるという思いがあった。

 独身最後のわずかな期間に、いままで経験のないことをしてみるのも悪くないかな、と。

 それに第一線で活躍する写真家のスタジオとはどんなところか、のぞいてみたいという好奇心もあった。

 でも、それがどんなに浅はかな考えだったか、このときのわたしは、まだ気づいていなかった。

 事前にネットで「安西瀧人・写真家」を検索した。
 彼の言っていたことは本当で、写真業界ではかなり名の知られた人のようだ。

 今はグラビアをメインに仕事しているけれど、もともとアーティスティックな写真を撮っていて、写真学校在学中に大きな賞も受賞している。

 今注目の若手カメラマン。弱冠27歳。

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