たとえ、この恋が罪だとしても
「近藤紗加よ。瀧人と共同でここを仕切ってるの。よろしく」
 そう言いながら、彼女は名刺を差しだした。

「ふっ、藤沢文乃です、あっ! きゃあ、すみません」
 名刺を受け取ろうと立ちあがった拍子にスツールを思い切り倒して、大きな音を立ててしまった。

 紗加さんは少しだけ口角を上げて笑みを浮かべた。
「大丈夫よ。そんなに緊張しなくても。何も取って食いやしないから」

 いや、緊張するなって言うほうが無理です。 
 絶対無理。

「何々、どうした?」
 音を聞きつけて安西さんもやってきた。

「何でもないわよ。椅子が倒れただけ」

「そう、ケガしなかった?」そう言って、わたしの顔をのぞき込んでくる。

「だ、大丈夫です」
 そんな至近距離で見つめられたら、恥ずかしくて顔があげられない。

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