たとえ、この恋が罪だとしても
 安西さんは右手を差し出して握手してくれた。

 暖かかった。
 男性にしては華奢な体形なのに手はやっぱり大きくて、小さな私の手はすっぽりと包みこまれた。

「ありがとうございました」


 表に出た。
 辺りはもう薄暗くなっている。
 あと30分もすればイルミネーションに明かりが灯る時間だ。

 こんな都会のど真ん中にスタジオを構えているプロの写真家に、しかもあんなに素敵な人に熱心にモデルをしてほしいと頼まれたんだ。

 クリスマス気分に浮かれる師走の雑踏を歩きながら、ようやく実感がこみあげてきた。

 夢を見ている気分。
 でも、夢は覚めるから夢なのだ。もうひとりの自分がそう警告を発していた。


 もう充分でしょう。目を覚ましなさい、と。
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