たとえ、この恋が罪だとしても
***

 はじめてお会いした俊一さんのご両親はとてもいい方たちだった。

 優しそうなお父さんと気さくなお母さん。
 お二人とも結婚に大賛成だと言ってくれた。
 
 俊一さんの転勤まであと4,5カ月。それまでに結婚の準備が山積みだ。

 いつ式を挙げるかまだ決めていないが、今回はそこに引っ越しの準備も加わる。

 でも、そのほうがいい。
 慌ただしく時を過ごせば、安西さんのことはわたしのなかで自然にフェードアウトしていくはずだ。

 婚約者であるこの人との新生活の準備にだけ集中しよう。
 中学生みたいに片思いの相手を想って、悩んでいる暇なんてない。

 本気でそう思っていた。それなのに……

 アパートの部屋の鍵を開けたとたん、わたしの携帯電話が鳴りだした。
 知らないナンバーが表示されている。

 もしかして……
 「文乃ちゃん? おれ……安西だけど」

 よほど、わたしを困らせるのが好きな神様に目をつけられてしまったようだ。
< 54 / 182 >

この作品をシェア

pagetop