たとえ、この恋が罪だとしても
***

 その衣装合わせの日。

 日曜日とはいえ、着いたのがまだ早い時間だったので、さすがの表参道も人はまばらだった。
 今朝は冷え込みが厳しい。
 吐く息が真っ白だ。

 わたしは、気合を入れるために、冷たい空気を肺に痛みを感じるほど思い切り吸いこんだ。

 安西さんを想う気持ちを封じこめるために心の周りに壁を築かなければ。

 わたしはただ、安西さんの仕事に協力するだけ。
 いわば、会社の取引先の人間。
 それだけ、それだけと、自分に暗示をかけるように唱えながら安西さんの事務所に向かった。

 スタジオのドアを開けたとたん、色とりどりのドレスをまとったマネキンが、所せましと並んでいるのが目に飛びこんできた。

 黒のベルベット、純白のタフタ、銀色の綸子、紅色のサテン、薄紫のシルク……目が眩みそうだ。
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