たとえ、この恋が罪だとしても
 なかでもひときわ目を惹いたのは、衣桁に掛けられた艶やかな着物だった。

 柄は華やかな花籠模様だったけれど、全体に落ち着いた色目で、成人式に着たレンタルの振袖とは違う、とびきり上等な品であることは一目でわかった。

 これほどの服を前にしたら、女の子ならみんな目を輝かせるだろう。
 まして見るだけでなくすべて着られるのだから。
 でもわたしはあまりの迫力に気後れしてしまった。

「こんな見事な衣装……着こなせる自信なんてない……」
 おもわず声に出してつぶやいていた。


「モデルは初めて?」
 驚いて声のしたほうを見ると、黒縁の眼鏡をかけた男性が立っていた。
 きみが今回のモデルだね、と言って、名刺を渡してくれた。
 上島渉(わたる)さん。
 ここに並ぶ豪奢な衣装のデザイナーさんだった。

「はい。きちんと写真撮影したのは、成人式ぐらいで」

 上島さんは優しげな表情で微笑んだ。優美で中性的な雰囲気の人だった。
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