たとえ、この恋が罪だとしても
「ふーん。なるほど……ね」
 紗加は謎が解けたという顔をして、おれを見た。

「そうよねえ。急に演技が上手くなるわけないもの」

「どういうこと?」
「ふふっ。教えない。自分で考えてみたら」
「なんだよ。気になるじゃない」
 おれは紗加を睨んだ。

「罪作りね。色男って。でもまかせておいて。わたしがあの子からもっといい表情を引き出してあげる」

 何かを企んでいるときの紗加はまるで獲物に目をつけた肉食獣だ。

 ということは目をつけられた小動物は文乃、か。

 そう思うと、かすかに胸の奥が痛んだ。

 この痛みはなんだ? わけもなくもやもやするこの気持ちは?

「本番の撮影が楽しみだわ」

 おれの戸惑いには気づかず、紗加は嬉しそうにつぶやいた。
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