たとえ、この恋が罪だとしても
「バッハですか」
「そう。よく知っているのね」
「コーラスをしているので」
「ああ、そうだったわね」

 興味なさそうな様子で彼女は答えた。

 安西さんはいないのかな、とつい見まわすと
「安西なら仕事で出てるわ。残念ながら……」と答えて、わたしをじっと見つめた。

 この鋭い人は見抜いているのかもしれない。
 わたしの安西さんに対する気持ちを。

 動揺を見抜かれないように装ったけれど、そんなわたしを紗加さんは面白そうに眺めていた。

「これなのよ。上島さんがこの間あなたに会ってから、すこしイメージを変えたほうがいいんじゃないかって」

 実際にわたしに着せてみて、前の衣装と差し替えるかどうか決めたいとのことだった。

「うん。さすがは上島さんね。あなたにとてもよく似合う」
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