たとえ、この恋が罪だとしても
 仕事がひと段落したので、あいさつをして帰ろうとすると

「コーヒー一杯ぐらい飲んでいきなさい。急に呼びつけてすぐに帰しちゃ申し訳ないから」と引き留められた。

「あっ……はい」

 断る口実が見つからず、促されるまま椅子に坐った。

 実を言えば、わたしは紗加さんのようなタイプが苦手だった。

 彼女の言動は自信に満ちあふれていて、相手に引け目を感じさせる威圧感があった。

 会社の先輩にもそういう人がいるが、話しているといつも落ち着かない気分になってしまう。

「あら、ミルク切れてるわ。ごめんなさい。砂糖だけでいい?」
「ええ、もちろん」

「それと、悪いんだけど、携帯電話お借りしてもいいかしら? 安西に買い物を頼みたいのだけど、かけようとしたらわたしの携帯、電源が切れてて。充電器も家に置いてきちゃったの」
「どうぞ」
「番号、わかる?」

 わたしは履歴を操作して、安西さんの番号を表示した。

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