たとえ、この恋が罪だとしても
 紗加の赤い唇からつぎつぎと毒が吐きだされる。

「おれはそんなこと、したくなんか……」
 反論が口まで出かかった。

 文乃を傷つけなきゃできないような仕事なんてしたくない――
 にわかに浮上した本心に我ながら愕然とした。

 一世一代のビッグチャンスよりも、会ったばかりの女の気持ちを重視している自分に。

 おれのためらいは無視して、紗加は話を続けた。

「人って残酷な生き物なのよ。ただ美しい写真を見せられても満足しない。本当に見たいのは美しいものが傷つけられる姿。そこに現れる背徳的な美に愉悦を覚えるのよ。そういう毒が作品に欠かせないスパイスになるんじゃないの」

「ああ、そうだよな。紗加のすることはいつも正しいよ。おれがここまでになれたのもあんたのおかげだ。それはよくわかってるよ。でも――」

 言い淀むおれに、紗加は小馬鹿にしたような視線を向けた。
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