たとえ、この恋が罪だとしても
 ひとり取り残されたおれの胸に去来するのは、さっき見た文乃の表情だ。

 彼女の痛みがダイレクトに伝わってきて、心がむちゃくちゃにざわついた。

 後を追っかけて、思いきり抱きしめてやりたかった。

 文乃の心の痛みを全身で受けとめてやりたかった。

 紗加は、文乃がおれへの気持ちをはっきり自覚するために仕掛けたことだ、と言ったが、それはおれにとっても同じことだった。


 おれは文乃が好きなんだ。


 これまで付きあった女はみんな、胸の内に打算を秘めていた。

 おれと寝ればまた仕事にありつけるんじゃないかとか、あるいは他人に自慢しようとか。

 こっちも束縛されるのは嫌いだとうそぶいて、故意にそういう女たちを選んでいた。

 そんなGive and takeな関係では肉体的満足は得られたけど、心が満たされることはなかった。
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