さあ、離婚しましょう  始めましょう

「尋人」
「ん?」
軽い感じで答える尋人に私は勇気を出そうとして、俯いているとマンションの前に車が止まった。

「あっ……」
着いてしまったことにも、寄って行っていい?と尋人から言わなかったことも、手をつなぐ以外何もなかった今日。
しかし、尋人だって気持ちを伝えてくれたのだ。
ここは私だって。そんな思いで勇気をだして口を開く。
「ねえ、コーヒーでも飲んでく?」
なんてベタな誘いだと自分でも思う。昔なら『ちょっと寄ってけば』ぐらいのセリフは全然言えたのに。
「は?」
少し抜けたような尋人の答えに、居たたまれなくなって返事を聞く前に言葉を続ける。

「いや、疲れたよね? ごめん。今日はありがとう」
矢継ぎ早に言いたいことを言って車のドアを開けば、後ろから腕を引かれた。
「コインパーキング止めてくるから、先に帰ってて」
「あっ……うん」
拒否されなかったことにホッとしつつも、誘ったような自分に落ち着かなくなってしまう。
車を降りると私は大きく息を吐いた。

「付き合うって大変だ……」
同じころ尋人も同じセリフを言っていたことを、私は知らない。

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