さあ、離婚しましょう  始めましょう
※※

「弥生、用意できた?」

離婚当日、朝から自分の部屋で荷物の最終チェックをしていた私は、その声に顔を上げた。
「うん」

最後ぐらい笑顔をと無理やり浮かべた私だったが、尋人はいつも通りだ。
この一年、それなりに楽しくやってきたと思うが、別に今日から私がいないことなど彼にとってはどうでもいいことなのだろうか?
少しぐらい寂しいと思ってくれてもいいのに。
そんな思いが頭をよぎるも、こんな気持ちを言うつもりなど毛頭ない。

「荷物これだけか?」

積み上げられた段ボールを見ながら尋人は言うと箱をポンポンと叩く。

「もともとそんなに持ってきてないし、ここは尋人の家だしね」

「あのソファはいいの? 気にいってただろ」
唯一、一緒に住み始めた時に買ったのがソファ。
大手のインテリアショップに行き、一緒に何時間も選んだのを思い出す。
私がベージュのファブリック、尋人がブラックのレザーがいいと意見が食い違った時のものだ。
そして、じゃんけんをして……。そこまで思い出して笑みがこぼれた。
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