さあ、離婚しましょう 始めましょう
「待て、弥生!」
少し慌てたような声と同時に後ろから手を引かれ、その拍子に私は後ろに倒れそうになる。
いや、倒れたのだ。
今までだって友人として触れたことはあったが、今は完全に後ろから抱きしめられている姿勢だ。
最後のご褒美? そんなバカな考えと同時に、ドキドキするのをなんとか隠し冷静を装う。
「ごめん、何?」
視線を向けることなく尋人から距離を取ろうとするも、そのまま腕を握られたままだ。
「尋人?」
どうしたのかわからず伺い見れば、尋人が珍しく怒ったような表情をしていた。
「まわりにはしばらく言わないって言わなかったか?」
確かに昨日の昼、そう話した。しかしそれは会社の同僚たちにであって、佐和子たちのつもりはなかった。
気の迷いで結婚をしてしまったが、尋人だって佐和子に独身だと思って欲しくないのだろうか。