さあ、離婚しましょう  始めましょう

「弥生」

そこにはいつも通り綺麗で凛とした佐和子がいた。私の名前を少し悲し気な表情で呼んだ。

「ごめん、いきなり。それにしても大丈夫だったの?」

昨夜、報告だけと思って引っ越すことをメッセージで送れば、すぐに折り返し電話がかかってきた。
「休みだし大丈夫だけど。いきなり驚いた」
少し声のトーンを落とすと佐和子は小さく息を吐いた。

「尋人は?」
引っ越す=別居、もしくは離婚。そんなことはすぐに予想がついたのだろう。
簡単に電話では離婚することになると思う。だから引っ越しをするそう伝えていた。

「いるよ」
別に私たちは喧嘩をしたわけでもない。世間一般の不仲になった夫婦とは少し違う。
でもそれを知らない佐和子はこうなった原因を考えているのだろう。
「ねえ、喧嘩したの? それならもう少し話したら……」
玄関先でこんな話をしていても仕方がないと、私は肩をすくめると佐和子を家の中へと促す。
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