さあ、離婚しましょう  始めましょう
そこへ行った時には、珍しく尋人はかなり酔っていた。
私の顔を見るなり言われた言葉に驚きすぎて、持っていたバッグを落とした。

『俺たちも結婚しようか』

『え?』

自分がそのときどんな気持ちだったのか、今ではもうわからない。でも私はすごく間抜けな顔をしていたのだと思う。
少し彼が笑ったことだけ覚えている。

そのあと、尋人はゆっくりと言い聞かすように言葉を続けた。

『そして、一年で離婚しよう』
彼が失恋したからと言って、私と結婚するメリットなど何もない。尋人が佐和子を好きだと知っているのはきっとそばにいた私だけだと思う。

『どうして?』

尋人自身、私がそのことを知っているなど想像もしていないと思う。
だからこそ、どうしてこんな提案をしたのかわからない。
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