さあ、離婚しましょう  始めましょう

落ち着いた店内はほとんど個室のようで、通された部屋はモダンな部屋だった。落ち着いた照明に、おしゃれなインテリア。
いかにもカップルのデートに使われそうな店だった。

「俺が頼んでいい?」
私の好みは熟知している尋人に、コクコクと頷く。尋人は接待などで慣れているかもしれないが、私はあまり高級店に今まで縁がない。ワイン一つ選ぶにもわからないので、おとなしく注文する尋人を見ていた。
慣れた様子で頼み終えると、私の方を向き直る。

「さっきの話。佐和子たちの結婚が延期になって、宗次郎に何か言われた?」
その問いの意味が解らなくて、私は首を振りながら口を開く。

「私は特に何も聞いてない」

「じゃあ、どうして今日宗次郎と食事の約束したんだ?」
冷静な冷たい口調に私はなぜこんな風に言われているのかわからない。

「それは……」
キスをされてから、尋人が何を考えているのかわからず、悩んでいた私を励まそうとしてくれた。そんな理由はもちろん言えず口ごもる。
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