さあ、離婚しましょう  始めましょう

何も言わない私に、尋人は何かを耐えるように眉根を寄せた後、くるりと私に背を向けた。

「仕事終わりの疲れてるときにいきなり悪かった」
帰るつもりのようで玄関に向かう彼を追いかけて、私はありたっけの思いを込めて後ろから彼のシャツを引っ張る。

「違うの、あの、嫌なわけじゃないの。ただ緊張しちゃって。……お茶飲んでって」
完全に意味不明だ。自分の言動にきっと私の頬は真っ赤だろう。
それでも私の思いが少しは伝わったのか、尋人がゆっくりと振り返る。

「弥生?」
尋人が戸惑ったように私の名前を呼ぶ。

これでは自分から誘ったようなものだが、これほどまで真剣に思ってもらっているのならきっと大丈夫。そう思えた。
< 88 / 173 >

この作品をシェア

pagetop