ご近所の平和を守るため、夫のアレが欲しいんです!
それ以外の思念もまるで映像のように浮かんで、私はこの悪霊を構成するものを把握した。そしてそれを踏まえた上で、先ほどコンビニで買ったご祝儀袋を取り出す。片手に形代、もう片手にご祝儀袋。よく見えるように悪霊に掲げてみせて、そしてもう一度、言葉に力を込めて話しかけた。
「この形代にお入りいただきますよう、重ねてお願い申し上げます。この家は決して貴方様の安らぎの場所にはなりません。この形代にお入りいただければ、この袋に大切に包み、貴方様を安らぎの場所へご案内させていただきます」
たかがご祝儀袋と侮るなかれ。そもそもご祝儀袋とは、神様へのお供物を束ねたものから始まったんだ。熨斗に水引きに紅白の色。形代がちょうど入る大きさで、神様に最大の礼を尽くして考えられたこの入れ物。家主が亡くなった後も遺産相続で揉めて、宙ぶらりんになってただ朽ち果てていくだけの、悔しい思い出しか無い家で拗らせていくよりも、絶対こっちの方が居心地が良い。
心の底からそう思い、その気持ちを言葉にした。これで悪霊がここから動かなければ、それは私の力不足ということだろう。
無言のままの緊迫の時間。
そして、先程と違い、悪霊がゆらゆらと揺れ始めた。
それは心の葛藤を表しているようで、私はただ黙って見つめるしか出来ない。クロもいつでも飛び掛かれる姿勢のまま、前方を見据えている。ここが一番の正念場だ。
ゆらり。
不意に悪霊が大きく揺れる。
ゆらり。ゆらり
そして煙となり、ゆっくりとこちらに近づいた。
『是』
声とはまた違う、思念のようなものが流れ込む。そしてその一言だけが響いたかと思うと、煙は形代へと吸い込まれていった。
「ありがとうございます……!」
形代に向かい、自然とお礼の言葉が出る。急に力が抜けてへたり込みそうになったが、なんとか踏ん張った。
調伏だの退魔だの、そんな格好良いことが出来ない私は、社会人生活で培った交渉とプレゼン力で、人ならざる存在も説得していかなければいけないんだ。
形代をそっと、ご祝儀袋に滑り込ませる。
「クロ、行こう」
そして小走りで神社に向かった。
◇◇◇◇
「この形代にお入りいただきますよう、重ねてお願い申し上げます。この家は決して貴方様の安らぎの場所にはなりません。この形代にお入りいただければ、この袋に大切に包み、貴方様を安らぎの場所へご案内させていただきます」
たかがご祝儀袋と侮るなかれ。そもそもご祝儀袋とは、神様へのお供物を束ねたものから始まったんだ。熨斗に水引きに紅白の色。形代がちょうど入る大きさで、神様に最大の礼を尽くして考えられたこの入れ物。家主が亡くなった後も遺産相続で揉めて、宙ぶらりんになってただ朽ち果てていくだけの、悔しい思い出しか無い家で拗らせていくよりも、絶対こっちの方が居心地が良い。
心の底からそう思い、その気持ちを言葉にした。これで悪霊がここから動かなければ、それは私の力不足ということだろう。
無言のままの緊迫の時間。
そして、先程と違い、悪霊がゆらゆらと揺れ始めた。
それは心の葛藤を表しているようで、私はただ黙って見つめるしか出来ない。クロもいつでも飛び掛かれる姿勢のまま、前方を見据えている。ここが一番の正念場だ。
ゆらり。
不意に悪霊が大きく揺れる。
ゆらり。ゆらり
そして煙となり、ゆっくりとこちらに近づいた。
『是』
声とはまた違う、思念のようなものが流れ込む。そしてその一言だけが響いたかと思うと、煙は形代へと吸い込まれていった。
「ありがとうございます……!」
形代に向かい、自然とお礼の言葉が出る。急に力が抜けてへたり込みそうになったが、なんとか踏ん張った。
調伏だの退魔だの、そんな格好良いことが出来ない私は、社会人生活で培った交渉とプレゼン力で、人ならざる存在も説得していかなければいけないんだ。
形代をそっと、ご祝儀袋に滑り込ませる。
「クロ、行こう」
そして小走りで神社に向かった。
◇◇◇◇