ご近所の平和を守るため、夫のアレが欲しいんです!
4. どれ
 事務仕事は滞りなく進み、夕方、私は定時で社務所を後にした。

「お前も疲れただろう。慶一君も呼んで、今日はこっちで食べれば良いんじゃないか」

 父は気を遣ってそう言ってくれるけれど、これから慶一さんに連絡してー、こっちに来てもらってー、ご飯食べて家に帰ってー、そこから洗濯物取り込んで、お風呂入ってー、……うん、面倒。

 あっさり辞退すると、父の表情がちょっと拗ねたようになった。ごめんね、お父さん。疲れた時に帰りたいのは、もう実家じゃなくて自分のお家なのよ。母はその点私の性格を理解しているようで、夕飯を作らなくてもいいようにおかずを作って持たせてくれた。いつもありがとう、お母さん。

 そして真っ直ぐ我が家へ帰宅。

 今日は金曜日だというのに、慶一さんは珍しく早く帰ってきた。残業が無かったらしい。母の作ったご飯を二人で食べ、お皿は彼が洗うというので、今日は私が先にお風呂に入る。私が上がったら交代で慶一さんがお風呂に入って、その間なんとなくテレビを観ていたら、眠りに引き込まれた。バラエティ番組の賑やかしい笑い声が、だんだんと遠ざかってゆく。

「紗江……?」
「んー?」

 呼び掛けられたけど、もう目が開かない。ふわっとお風呂上がりの石鹸とかシャンプーの匂いがして、慶一さんの腕に包まれた。そのまま手に持っていたリモコンを取り上げられて、テレビを消される。

「慶一さん、……温かい」

 半分夢心地のまま、夫の胸に自分のこめかみ辺りをぐりぐりと押し付ける。お風呂上がりのいい匂いとほかほかの体に、幸福度が跳ね上がる。今日もいい日だ。

 ふにゃりとした笑顔になって、また眠りに引き込まれそうになったところで、唇に柔らかいものが当たった。これ、慶一さんの唇。

「あ……、慶一」

 言い終わらないうちに、柔らかい舌が入り込む。口の中、軽い挨拶のように舌を絡められるとそれはすぐに解けて、次に上顎をくすぐられた。

「んっ、ん……」

< 13 / 21 >

この作品をシェア

pagetop