ご近所の平和を守るため、夫のアレが欲しいんです!
「駄目です。俺が知っていることは紗江には秘密なんですから」
「なぜ秘密にする?」
「俺は、紗江にとっての普通な存在でありたいだけです」
「普通」
今度こそ聞こえるように、クロはフンと鼻で笑った。
ただ見えるようになっただけの紗江と違い、慶一はこうしてクロと話をすることが出来る。神や神使という人ならざる存在を具現化して捉え、聴いて会話することが出来るのだ。能力だけ言えば、慶一の方が紗江よりもあるだろう。
だが、慶一はその力を使うことを欲しなかった。それは、代々神職として神に仕える家系の紗江とは、決定的に違うところだ。理解する能力を鈍らせた、守護達の誘導が上手かったせいでもあろう。
「紗江はお前に打ち明けられずに苦しんでいるぞ?」
そう話を振ってやると、ぐっと詰まる。偉そうなことを言っておきながら、どうせ碌でもないことを人間の男は考えるのだ。
「打ち明けられずに悩む紗江を見るのも楽しみなのだろう?」
「クロ様!」
思い切り動揺する慶一を眺め、クロは声を出して笑った。
だが、
「……あれは、我にとっても愛しい子だ。あまり苛めてくれるな」
先ほどとは立場が逆転し、今度はクロが慶一に釘を刺した。笑いを残した口調だが、目付きは厳しい。慶一はそんなクロの視線を真っ直ぐ受け止め、真剣な表情で肯く。
「俺にとっても大切な存在です」
その返答に満足すると、クロはゆらりと影になった。
「ならば、良い」
これ以上、夫婦の寝室に居座るのも野暮というものであろう。神社にでも帰り、今日祀った霊でも弄ってみるのも一興だ。
次の瞬間、クロの姿がこの家から消えた。
クロが気配を消すと、慶一はベッドへ潜り込み、妻をそっと抱きしめた。自分が黙っていることにより、紗江が苦しんでいるという指摘は否定しようが無く、罪悪感が湧き起こる。そろそろなんらかの形で打ち明けなければならないだろう。だが、今日はもう眠りたい。
念のため辺り一帯に意識を張り巡らせてみると、クロの結界が感じられる。なんだかんだといっても、クロは十分、紗江に甘い。
「お休み、紗江」
妻の後頭部に唇を寄せ、そして今度こそ安心して、慶一も眠りへと落ちていった。
願わくば、自分たちの日常がこうして平和に過ぎていきますようにと、そう祈りながら。
「なぜ秘密にする?」
「俺は、紗江にとっての普通な存在でありたいだけです」
「普通」
今度こそ聞こえるように、クロはフンと鼻で笑った。
ただ見えるようになっただけの紗江と違い、慶一はこうしてクロと話をすることが出来る。神や神使という人ならざる存在を具現化して捉え、聴いて会話することが出来るのだ。能力だけ言えば、慶一の方が紗江よりもあるだろう。
だが、慶一はその力を使うことを欲しなかった。それは、代々神職として神に仕える家系の紗江とは、決定的に違うところだ。理解する能力を鈍らせた、守護達の誘導が上手かったせいでもあろう。
「紗江はお前に打ち明けられずに苦しんでいるぞ?」
そう話を振ってやると、ぐっと詰まる。偉そうなことを言っておきながら、どうせ碌でもないことを人間の男は考えるのだ。
「打ち明けられずに悩む紗江を見るのも楽しみなのだろう?」
「クロ様!」
思い切り動揺する慶一を眺め、クロは声を出して笑った。
だが、
「……あれは、我にとっても愛しい子だ。あまり苛めてくれるな」
先ほどとは立場が逆転し、今度はクロが慶一に釘を刺した。笑いを残した口調だが、目付きは厳しい。慶一はそんなクロの視線を真っ直ぐ受け止め、真剣な表情で肯く。
「俺にとっても大切な存在です」
その返答に満足すると、クロはゆらりと影になった。
「ならば、良い」
これ以上、夫婦の寝室に居座るのも野暮というものであろう。神社にでも帰り、今日祀った霊でも弄ってみるのも一興だ。
次の瞬間、クロの姿がこの家から消えた。
クロが気配を消すと、慶一はベッドへ潜り込み、妻をそっと抱きしめた。自分が黙っていることにより、紗江が苦しんでいるという指摘は否定しようが無く、罪悪感が湧き起こる。そろそろなんらかの形で打ち明けなければならないだろう。だが、今日はもう眠りたい。
念のため辺り一帯に意識を張り巡らせてみると、クロの結界が感じられる。なんだかんだといっても、クロは十分、紗江に甘い。
「お休み、紗江」
妻の後頭部に唇を寄せ、そして今度こそ安心して、慶一も眠りへと落ちていった。
願わくば、自分たちの日常がこうして平和に過ぎていきますようにと、そう祈りながら。